生きる、というより、
生き延びる、という表現が正しい毎日だった。
一生懸命に生きているつもりなのに、どうしてこうも苦しめられなければならないのかと、やり場のない怒りすら覚えるほどに。
一人暮らしの無駄に広い部屋に帰り、スーツのまま床に転がった。
かろうじて残った理性が寝落ちさせまいとスマホを握らせた。
その小さな四角の中に現れた11人組を、好きになった。
INI。
床の上で出会う前から知ってはいた。
好きになれるきっかけは今までにもあったはずだけれど、人生にはどうもタイミングというものがあるらしい。
結果的にこうして好きになってしまったので、経緯や想いを言葉にして残しておこうと思う。
INIを知ったのは、大学3年のとき。
仲の良い友人たちはみんな自分の推しをオープンにする人だったので、いつも布教するでもなくただ好きな人についてよく話していた。
その中の1人が好きだったのがINIで、私はその友人の話でINIというグループの存在を知った。
といっても、先述したように布教されるわけではないので、時々写真を見せてもらっては「人数が多いな」とか「髪がカラフルだな」と思っていた。
好きになるとは、まったく思っていなかった。
当時(今もだけど)私が好きだったアイドルは、嵐とSixTONESとHiHi Jets。
筋金入りのJのオタク。
正直なところ、文化が違いすぎるので交わることはないだろうと思ってはいたが、友人がいつもとても楽しそうに話すのでINIの話を聴くのは好きだった。
大学4年の冬、友人から京セラドームに行かないかとお誘いを受けた。
INIが初めてドーム公演をする。そのチケットが当たったので一緒に行ってほしい。と。
奇しくもその日はSixTONESの京セラドーム公演の翌週で、楽しい記憶は上書きしたくない派の私は少し悩んだ末に連れていってくださいと返事した。
前日までにYouTubeでMVを見て多少楽曲の予習はしたものの、メンバーの顔と名前は全く覚えられず、友人の推しの名前と髪色のみインプットした状態で当日を迎えてしまった。
しかもその日は朝から大阪マラソンのボランティアに行っていて、一日雨に打たれ続けていたので会場入りしても寒くて寒くて震えが止まらなかった。
早く開演して熱気で会場を温めてもらうか、特効で炎があるならもう私に向けて打ってくれと思うくらい寒かった。
公演中は、ペンライトもうちわも何も持たずに来てしまったことに罪悪感を抱きつつ、友人から借りた友人の推しのうちわを握りしめていた。
曲中のコールが多いし、曲終わりに暗転した瞬間いろんなところから名前を叫ぶ声が聞こえてくるし、こりゃもうなんだか異文化交流だな…と思いながらライブを見ていた。
曲はRocketeerとLet Me FlyとLEGITしかわからなかった。(予習とは)
ステージの上には11人もいて、誰を見ればいいのかもわからなかったし、そもそも遠くて顔はよく見えなかった。
歌も席が悪かったのか音割れがあり、ちゃんと聴こえなかった。
ただ、遠目で見ていてもわかるくらいとても好きな表現をしている人が1人いた。
友人にあれはなんという人ですかと尋ね、西洸人という人だと教えてもらった。
そういえば直前にたまたま見ていたMUSIC FAIRでなんか良いなと思ってた人がこんな感じだった気がするな、と思い至り、そこから先は基本西洸人さんを目で追っていた。
ライブは楽しかった。
でもどハマりまではいかなかった。
多分それは、そのときの自分の心がすでにある程度満たされていたからで、INIの魅力不足とかそういうことでは決してない。
なんとなく一瞬交わって、また離れていくのだろうとそのときは思っていた。
一瞬でも交われて良かったと思っていた。
それから数ヶ月の間、目まぐるしい環境の変化が起き続けた。
社会人になり、一人暮らしを始め、詳細を書くと確実に身バレするような社内のゴタゴタに翻弄され、私生活でも良くないことが続き、心身ともに擦り減るだけの日々を過ごした。
朝、目が覚めているのに体を起こすことができなかった。
泣きながら支度して仕事に行き、帰ってきたらもう何もする気が起きなかった。
大好きなアイドルたちを見ようにも、以前のように応援できない悲しみが少し距離を遠ざけた。
彩りのない毎日だった。
ある日、帰宅したままの格好で床に転がり、いろんなことがどうでもよくなりながら開いたYouTubeでたまたま出会ったのがこの動画だった。
まさに青天の霹靂。
あまりにも強い「生」を感じて、それが眩しくて。
気づいたらボロボロ泣いていた。
このパフォーマンスで、藤牧京介というひとに出会った。
音楽に対する泥臭さすら感じる熱量と、あまりにも真っ直ぐな歌に、救われた。ほんとうに。
こういう出会い方をしてしまったら、もう抜け出せないことはわかっていた。
知りたいと思った。
もっといろんな曲を聴きたいと思った。
とりあえずアルバムを買えばいろんな曲が聴けるだろうと、休みが来た瞬間CDショップに走ってアルバムを購入した。
わくわくしながら帰宅して、スマホに取り込みながらふと曲目を見るとHEROが入っていなくて、なんで!?と思ったらデジタルシングルだった。
そんなこともあるのか…と驚きつつデジタルシングルを全て購入し、片っ端から聴いていった。
救われた、と感じたとき、私はその人を好きになる。
アイドルに対してそんな感情を抱く瞬間は、大抵曲を聴いたときに訪れる。
今回も、入り口はHEROだった。
これはもう逃れられないなと思ったのは、Ferris Wheelを聴いたときだった。
自分でも驚くほど、この曲を聴いてボロボロ涙が出てきた。
繰り返す日々の中の苦しさやもどかしさを知りながら、それでも明日に光があることをわかっている人が書いた詞。
ぐるぐると同じところを回り続けているだけの日々だと感じていた私の顔を、ふっと上げさせてくれるような歌だった。
(この曲について語り出すと非常に長くなりそうなので、それはまた別のブログに書こうと思う。)
アルバムを何度も何度も繰り返し聴いて、シングルも少しずつ集めていった。
同時に、INIフォルダも見始めた。
これがまた良かった。
11人それぞれの心根の優しさが至るところに表れていて、そしてちゃんと面白くて、見ていると幸せな気持ちになった。
あたたかいグループなんだということがわかり始めた。
そして、彼らのはじまりであるオーディション番組を夜な夜な見ては涙し、デビューが決まった瞬間には結末を知っているとは思えないほど号泣した。
いろいろなコンテンツを見て、歩みを知った。
実は、INIについて調べ始めた時期には何故かオットセイニキの動画がTikTokのおすすめ欄を占拠していた。(これは本当に謎だったけど、毎回良い顔と良い声が見られるのでまあええかと思っていた。)
その隙間に流れてきたこの動画を見て、より一層藤牧京介というひとの声に惹かれた。
@official__ini 本番前の隠し撮り #SAMRISEfestival #サムライズフェスティバル #RADWIMPS #そっけない #INI #尾崎匠海 #TAKUMI #髙塚大夢 #HIROMU #藤牧京介 #KYOSUKE ♬ そっけない - RADWIMPS
3人ともそうだけれど、歌に愛されすぎている。
愛されるだけの努力をしてきたこともしっかりと伝わってきた。だから、好きだと思った。
闘いの世界の中でどこか張り詰めた顔をしていた彼らが、今のびのびとパフォーマンスしている姿を見せてくれているのだと思うと、胸打つものがある。
一歩一歩の歩みを知ると、感謝と尊敬の念が湧いてくる。
私はやはりアイドルが好きで、泥臭く夢を掴まんとする人が好きで、一つずつ夢を叶えて輝きを増していく姿を見るのが好きなのだと思った。
INIの魅力はきっと語り尽くせないくらいあると思うし、人によって何に魅力を感じるかも様々だと思う。
私は、泥臭く努力できる人たちの集まりであること、真っ直ぐで純粋な「届けたい」という気持ちがパフォーマンスや言葉から伝わってくることに、大きな魅力を感じた。
きっとこれから先も、見るたびに研ぎ澄まされていくのだろうと思えるし、新しいことにも手を伸ばせる人たちだと思う。
ステージに立つことの意味、そこに立てる幸せを知っていて、それをこちら側に伝えてくれるアイドルは尊い。
幸せなだけではないはずだけれど、それを見せず、ただひたすらにファンに愛を伝え幸せを手渡す姿は、何より輝いて見えた。
今、自分が置かれている環境に特に変化はない。
苦しさも、やるせなさも、たまに逃げ出したくなることも、変わらない。
でも、生き延びるだけだった日々は、INIに出会ってから生きる日々に変わった。
薄れていた世界の色が、また鮮やかになった。
苦しくてしんどくてどうしようもなかったけれど、追い詰められていたから彼らの存在に気づくことができた。
苦しさの中にこうして意味を見出せるのなら、それは価値ある苦しみだったのだと思う。
そう思わせてくれたのが、INIだった。
これから先、きっと何度も思う。
出会えてよかった、ありがとう、と。