今の世界のすぐ隣に別の世界線があるならば、私は今頃きっとジャニーズJr.になっている。
尊敬する先輩は?
というありきたりな問いに、迷うことなく「松村北斗くんです」と答えるだろう。
ジャニーズJr.の私は、きっとそんなにかっこよくはないけれど、
歌もダンスも人一倍練習する、努力家。
何か一芸身につけたいと思い、趣味を深める日々。
先輩と仲良くなりたいと思いながら、コミュ障を発揮してなかなか仲良くなれずちょっと落ち込んだり。
ブログは多分、毎回長文。
私服は割とダサめ。
でも、ファンの人を喜ばせるために全力を尽くしている。
街中で声をかけてもらったら、時間の許す限りお話をする。
ライブでは1人でも多くのファンと目を合わせ手を振る。
ファンレターなんて貰った日には嬉しくて何度も読み返して、喜んで返事を書く。
そうやって地道に少しずつ、応援してくれる人を増やしていくだろう。
なんて、存在しない世界線を生きる自分を想像しては、現実の自分に落ち込む毎日。
私だって、許されるならジャニーズになりたかった。
夢を見た日
同時に、この夢は叶えられないと知った。
私は女だった。
女であることを恨んだのはその時が初めてだった。
男だったら頑張りようがあった。
でも、私は女だから、頑張ることすらできなかった。
「○○くんに憧れて、履歴書を送りました」
そんな言葉を言いたかった。
叶わなくても、努力くらいしたかった。
でも、無理だから。
この世界線では、私はただのオタクで。
努力くらいしたかったと言う割には何もなくて。
一般人としても割とクソな方。
憧れのジャニーズには程遠い。
アイドルは夢を売る仕事だ、と人は言う。
その夢を買いたかった。
憧れのジャニーズと自分を重ねて、夢を見たかった。
悔しかった。残酷だった。
売られた夢を買うことはできない。
その事実は冷たかった。
アイドルになりたかったわけではない。
私は、ジャニーズになりたかった。
他の形ではダメだった。
ジャニーズに強い憧れを抱いていた。
夢は叶う、なんて
大嘘だ。
夢を見る権利すら、私にはなかったのだから。
違う世界線の私は、今日もレッスンを受けているだろうか。
振り付けがなかなか覚えられなくて苦戦しているだろうか。
はたまた、雑誌の取材で北斗くんについて熱く語っているだろうか。
私はこの世界で生きている。
この世界で叶えられなかった夢を、違う世界線の私に託す。
憧れのジャニーズを目指すことすら叶わない世界は、残酷で、退屈だ。
でも、憧れのジャニーズを応援する人生は、案外悪くない。
堅実な道を選んできた。
コツコツ勉強して、そこそこの高校に進学した。
そのまま堅実に生きていくのもアリだった。
でも、ジャニーズを好きになって、なんだか気が大きくなったようで、突然冒険してみようと思った。
この世界の私にとっての大冒険は、ジャニーズとして生きる人たちにとっては近所の散歩くらいだけど。
それでも、誇り高く生きていかねばならないのだと、大好きな人たちを見ていて思う。
誇れるような人生を歩んできたわけじゃない。
むしろ、落ちこぼれで、どうしようもないような奴で、周りの人に助けてもらってなんとか立ってるくらいの情けない人間だ。
それでも、誇らねばならんのだ、と思う。
今の道を、この人生を選んだことを、誇らねばならん。
憧れのジャニーズを愛するなら、愛するに相応しい人間でありたいと思う。
叶えられなかった夢を違う世界線の私に託すなら、この世界の私も負けていられないのだと思う。
実際には、ジャニーズJr.の私はいないし、多分来世も来来世もジャニーズにはなれないけど。
それでも、違う世界線の私の存在が私を奮い立たせている。
夢を売るって、もしかするとこういうことなのかもしれない。
と、思った私は、今日も懸命に生きている。
近所の散歩にも、きっと新しい楽しみを見つけられるはずだと信じて。